蟻のアルゴリズムとベトナムの秩序から学ぶ ― 自然と社会が示す「動く組織」のつくり方
- 宜生 玉田

- 9 時間前
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最初に思い出してほしい光景があります。雨上がりの道を、蟻の群れが黙々と行列をつくって進む姿。誰も指示を出していないのに、彼らは最短ルートを選び、必要な瞬間に全員が役割を切り替えます。MIT Press をはじめとする権威ある研究では、これは「自然界で最も完成された最適化アルゴリズム」と評価されています123。
そして、この秩序の作り方は、私たちが日常で目にするベトナムの生活文化や社会構造にも驚くほど似ています。

1. 蟻が教える「世界はこうして動いている」
蟻社会には、常に働き続ける個体と、ほとんど動かない待機蟻が存在します。

働き蟻の役割
巣の補修
幼虫の世話
食料運搬
防衛
待機蟻の役割
危機時や食料不足時に前線に動員
普段は巣内環境維持や温度調整を担当
ここで重要なのは、蟻にとって一見「愚か」と見える行動も、彼らの視点では最もメリットのあるルートであり、現状のリソースを最大限活用した合理的な選択であることです。複数のルートを同時に探索する蟻の行動は、将来の補給効率やリスク回避を含めた総合最適化の判断として行われています。
2. ベトナム社会に潜む “待機力” と実証研究

ベトナム都市や農村では、一見無秩序に見える市場や交通も、実は人々の自発的行動が自然な秩序を生む構造です。特に洪水や台風が多発する地域では、Community Based Disaster Risk Management (CBDRM) と呼ばれる住民参加型防災活動が制度化されています4。
CBDRM の特徴
村やコミューン(地域単位)レベルでの住民主体の防災活動
日常は静かだが、災害時には住民が即座に前線に立つ ― 蟻の待機蟻と同じ原理
危険情報の共有、優先的対応策の選定、避難計画の実行など、分散型意思決定で最適化
実際、研究では、洪水多発地域でCBDRMを実施した村では、行政単独よりも人的・経済的損失が低減し、地域住民のリスク管理能力が向上したことが確認されています4。
さらに、ODAの支援物資調達や市場での取引も、外部からは理解しにくい一見「愚かな選択」に見えることがあります。しかし、現地関係者にとっては、現状の資金・時間・物流状況を最大限活用する最適化判断であり、蟻の複数ルート探索の原理と通底します。
3. 都市交通・市場・農村の最適化
蟻はフェロモンを使って最短ルートを探索します。人間にはフェロモンはありませんが、行動そのものが情報として共有され、流れを作ります。

ベトナム都市交通
洪水や事故でバイクの流れが瞬時に迂回ルートを形成
Grabが普及する以前も、情報ベクトルの自然形成で秩序が生まれていた
市場・農村
通路や作業は個々の判断で自然に最適化
農閑期の住民が緊急時に労働力として動く
この構造は、蟻の「探索 → 情報共有 → 最適化 → 再探索」の循環と同一です。自然界の秩序が、社会文化やビジネス判断の中に反映されているのです。
4. 蟻アルゴリズムの現代技術応用
蟻の行動原理は Ant Colony Optimization (ACO) として体系化され、以下で活用されています:
物流ルートの最適化(7〜10拠点間の配送ルート効率化)
都市交通の混雑シミュレーション(ベトナム都市での迂回ルート予測)
通信ネットワークの最適化(データ流れのリアルタイム最適化)
ロボット群制御・ドローン探索(個々の行動を同期させ目的地到達を最適化)
蟻の完璧な意思疎通と最適化の循環は、現代の技術インフラの裏側でも静かに生きています123。
5. 蟻 → ベトナム → ビジネスへの学び
自然と社会の法則を観察すると、学べることは明確です:
余白(待機力) が組織を守る
情報共有 が意思決定を円滑にする
探索と最適化の循環 が柔軟性を生む
個々の自発的行動 が全体の秩序を作る
さらに、外部から理解されにくい「一見愚かな選択」も、当事者にとって最もメリットのある判断であることを忘れてはいけません。これは蟻の複数ルート探索と同じ理屈であり、ODA調達や契約戦略における合理性ともリンクします。
日本企業がベトナム進出やチーム運営を考える際、自然界と社会文化の秩序から、リスクを含む意思決定の合理性を学ぶことができます。小さな行動が積み重なり、社会全体や組織の安定性を支える ― 蟻もベトナム人も、私たちに同じメッセージを投げかけています。

参考文献
Dorigo, M., & Stützle, T. (2004). Ant Colony Optimization. MIT Press. ↩ ↩2
N. Nayar. (2021). Ant Colony Optimization: A Review of Literature and Its Applications. Springer. ↩ ↩2
Zhang, H., et al. (2025). A Literature Review of Ant Colony Algorithm Based on CiteSpace. Journal of Artificial Intelligence. ↩ ↩2
Huy Nguyen, Hoang Minh Hien, Rajib Shaw, Tong Thi My Thi. (2013). Community Based Disaster Risk Management in Vietnam. ResearchGate. リンク ↩ ↩2
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